2026年6月18日、デジタル化・AI導入補助金2026(旧・IT導入補助金)の第1回(1次締切)採択結果が公表されました。数字はこうです。
通常枠の採択率 43.94%/インボイス枠の採択率 46.88%。
これを見て、「前年の第1次は通常枠50.7%・インボイス枠57.6%だったのに、ずいぶん下がった」「採択率が急落した」と感じた方も多いかもしれません。
ですが——結論から申し上げると、この”急落”という見方は、比べる相手を間違えています。
正しい物差しは、2025年の「第1次」ではありません。2025年度の”通年”の採択率(通常枠 約37.9%・インボイス枠 約46.2%)です。この通年水準と比べると、2026年第1回はむしろ通常枠は上回り、インボイス枠は横ばい。つまり「急落」ではなく、最初から通年水準の近辺で開幕した、というのが実態に近いのです。
本記事では、事務局が公表した採択”件数”という事実をもとに、(1)数字の正しい読み方/(2)採択率を低めに押さえている構造的な背景(予算と要件の複雑化)/(3)次回に向けて加点をどう積むかを、一次情報にもとづいて整理します(出典は記事末にまとめています)。
この記事でわかること
- 第1回の採択率(通常枠・インボイス枠を分けて)
- 「1次同士」で比べると見誤る理由と、「年度通算」で見た本当の水準
- 採択率を低めに押さえる背景①:予算は増えていない
- 背景②:給与(1人当たり給与支給総額)の算定が複雑
- 背景③:賃上げ加点(賃金状況報告シート①②)の中身
- 加点で差をつける方法(公募要領の加点項目)
- 第3回から始まった新加点「デジタル化セカンドオピニオン」
- 次に狙うなら何次か(残り日程と逆算)
1. まず数字:通常枠とインボイス枠を”分けて”読む
採択結果が公表されたのは2026年6月18日、1次締切は2026年5月12日でした。
この補助金にはいくつかの申請枠がありますが、本記事では申請が集中する2つの枠——通常枠とインボイス枠(インボイス対応類型)——に絞って読み解きます(セキュリティ対策推進枠・電子取引類型は申請の母数が小さく、傾向を語る対象には向かないため、ここでは脇に置きます)。
第1回の結果は、次のとおりです。
| 枠 | 申請 → 採択 | 採択率 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 2,028 → 891 | 43.94% |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 4,324 → 2,027 | 46.88% |
ここでいう採択率は、事務局が公表した「申請数」と「交付決定数」から算出した数字です。事務局が「合否ライン」として採択率を設定・公表しているわけではありませんし、この数字が次回の採否を保証するものでもありません。あくまで結果の振り返りとしてご覧ください。
通常枠で43.94%、インボイス枠で46.88%。半数前後が採択され、半数前後が不採択——そんな数字です。
この43.94%・46.88%を「高い」と見るか「低い」と見るか。実はそれは、“何と比べるか”で正反対になります。
2. 数字のトリック:比較対象を”年度通算”にすると結論が反転する
冒頭で触れたとおり、よくある比較は「前年の第1次」との比較です。
- 通常枠:50.7%(2025年1次)→ 43.94%(2026年1回)
- インボイス枠:57.6%(2025年1次)→ 46.88%(2026年1回)
こう並べると、たしかに「急落」に見えます。ですが、この比べ方には落とし穴があります。2025年の第1次は、その年のなかでも突出して高い回だったからです。
正しい物差しは、単年の「第1次」ではなく、2025年度を通した”通年”の採択率です。
| 枠 | 2025年度 通年採択率 | 2026年 第1回 |
|---|---|---|
| 通常枠 | 約37.9%(21,149→8,031) | 43.94%(むしろ上) |
| インボイス枠 | 約46.2%(49,186→27,804) | 46.88%(ほぼ横ばい) |
通年で見ると、印象が反転します。通常枠の43.94%は、2025年の通年37.9%を上回っています。インボイス枠の46.88%も、通年46.2%とほぼ同水準です。
なぜ「第1次同士」だと急落に見えるのか。それは、2025年は第1次が突出して高く、回を追うごとに通年水準へ収れんしていったから。下の推移を見れば一目瞭然です。
結論:通年と比べれば「急落」ではありません。 通常枠はむしろ高めの開幕、インボイス枠は横ばい。2026年の第1回は、最初から2025年の”通年水準”の近辺でスタートしたと読むのが自然です。
なお、「2025年の第1次がなぜそれほど高かったのか」については、事務局から公的な説明があるわけではありません。理由は推測になってしまうため、本記事では踏み込みません。ここで押さえたいのは、「採択率を見るなら、単発の第1次ではなく通年の水準で見るのが妥当」という一点です。
では、その通年水準を低めに押さえている構造的な要因は何でしょうか。ここから背景に入ります。
3. 背景①:予算は”増えていない”
採択”数”の上限を最終的に決めるのは、予算です。そして、この補助金の母体である「中小企業生産性革命推進事業」の補正予算は、3,400億円。前年と同額で据え置かれています。
加えて、2026年は補助金の枠組み自体に地殻変動がありました。ものづくり補助金が「中小企業新事業進出補助金」と統合・再編され、これまでの構成が変わっています。
ここから先は、中小企業診断士としての私(筆者)の”見立て”です。断定ではありません。 パイ(3,400億円)が増えていないなかで、ものづくり補助金の再編にともなって動いた予算は、別の施策——たとえば中小企業成長加速化補助金のような枠——へ向かった可能性があると私は見ています。ただし、これは公表された予算配分から断定できる話ではありません。配分の内訳は、必ず公的資料でご確認ください。
見立ての部分はさておき、確かなのは「原資(予算)が増えていない」という事実です。原資が増えなければ、年間で通せる採択”数”の天井も大きくは上がりません。これが、通年の採択率が低めに張り付く「土台」になっていると考えられます。
ただ、原資が同じでも、申請のハードル(要件)が軽ければ、ここまで絞られはしません。もう一つの背景——要件の複雑化——を見ていきましょう。
4. 背景②:要件の複雑化①——「平均給与(1人当たり給与支給総額)の算定」が難しい
旧IT導入補助金からの大きな変化のひとつが、賃上げに関する要件の重さです。賃上げは「必須要件」としても「加点」としても効いてくるようになり、その土台となる「1人当たり給与支給総額」の算定が、申請者にとって読み解きにくいポイントになっています。
公募要領(通常枠)の定義を整理します。まず、給与支給総額に「含むもの/含まないもの」です。
含む(給与所得として課税対象)
給料・賃金・賞与
含まない
役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金
次に、対象に数える”人”の数え方です。ここを取り違えると分母がズレます。
対象に数える”人”の数え方
- 全月分の給与等を受けた従業員のみを対象(中途採用・退職などで全月分でない人は、その事業年度に限り除外)
- 産前・産後休業、育児休業、介護休業などで時短勤務の従業員は除外できる
- パートタイム従業員は正社員の就業時間に換算して人数を算出
- 従業員を雇用していない法人は、役員報酬・役員数に読み替えて算出
そのうえで、必要な”伸び率”(年平均成長率)は、申請額と過去の採択歴で次のように分岐します。
| 区分 | 必要な年平均成長率 |
|---|---|
| 算定式 | 1人当たり給与支給総額 = 給与支給総額 ÷ 従業員数 |
| 物価安定の目標+1% | 3%以上 |
| 物価安定の目標+1.5% | 3.5%以上 |
※どちらの水準が必要かは、補助申請額(150万円未満か以上か)と過去の採択歴(IT導入補助金2022〜2025での交付決定の有無)で出し分けられます。
注意: 分母(人数の数え方)と分子(給与の範囲)の定義を取り違えると、計画値そのものがズレます。見栄えのよい高い伸び率を置いてしまうと、採択後の効果報告で未達となり、将来の補助金申請で不利になるリスクもあります(後述)。
複雑なのは算定だけではありません。昨年度の途中から増えた”賃上げ加点”も、専用のシートが必要になります。
5. 背景③:第7次から続く”賃上げ加点”(賃金状況報告シート①②)
賃上げに関する加点のなかには、「賃金状況報告シート」という専用様式の提出が必要なものが2種類あります。これらは昨年度(IT導入補助金2025)の途中、第7次締切から導入され、今年度の公募要領にも引き継がれています。
2つは「狙う加点」が異なります。下表で整理します。
条件:令和6年10月〜令和7年9月で、その期間の地域別最低賃金以上〜令和7年度改定後の最低賃金未満で雇用する従業員が、全従業員の30%以上の月が3か月以上
様式:賃金状況報告シート(補助率引上げ・加点措置①用)
条件:交付申請の直近月の事業場内最低賃金を、令和7年7月の事業場内最低賃金+63円以上の水準にした
様式:賃金状況報告シート(加点措置②用)
※シート①は、補助率を2/3に引き上げる場合にも使う共通様式です。
①は「最低賃金の近くで雇っている人の割合」、②は「直近で実際に賃上げした幅」を見る加点です。狙いどころが違うので、自社がどちらに当てはまるか(あるいは両方か)を先に判定しておくのが効率的です。
ここまでが「重くなった要件」の中身です。では、これらも含めて、加点でどう差をつけるかを見ていきましょう。
6. 加点で差をつける(公募要領の加点項目を整理)
通年水準が低めに張り付くなかで結果を分けるのは、加点の積み上げです。公募要領(通常枠)の加点項目は全15項目。実務で意識したい主なものを整理します。
- 導入ITツールにクラウド製品を選定
- 導入ITツールに「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定
- 導入ITツールにインボイス制度対応製品を選定
- 賃上げ計画(さらなる賃上げで追加加点)
- 「IT戦略ナビwith」(デジwith)の実施結果(ITマップ)を添付
- 健康経営優良法人2026の認定
- くるみん/えるぼし等の認定
- 中小企業庁「成長加速マッチングサービス」で挑戦課題を登録
- 中小機構「省力化ナビ」を活用(「解決策」PDFのダウンロードまで必要に改訂)
- 最低賃金に関する要件(前章の加点措置①②)
賃上げ加点には”後日の責任”がともないます。 加点を受けて採択されたのに、申請した賃上げ要件を達成できなかった場合、効果報告での未達をきっかけに、一定期間、他の補助金申請で大幅に減点される取り扱いがあります(公募要領の補足)。見栄えで数字を盛らない——これが鉄則です。
そして、今年度・回次の進行とともに新しく加わった加点があります。次章の主役です。
7. 回次の最新動向:第3回から始まった新加点「デジタル化セカンドオピニオン」
2026年5月15日の公募要領改訂で加点項目に追加され、第3回公募回(第3次=2026年6月16日〜)から加点措置が始まったのが、デジタル化セカンドオピニオンです。
仕組みはこうです。申請者(経営者本人)が、事務局に登録された第三者の「確認者」とオンラインで面談し、自社のデジタル化の取り組みについて客観的な評価を受ける。これが加点につながります。確認者は、中小企業診断士・ITコーディネータの資格を持ち、募集を経て事務局に登録された人とされています。加点を希望する場合は、応募締切までに面談を完了している必要があります。
重要な線引き: この確認者には、IT導入支援事業者やITベンダーはなれません。面談への同席も認められていません(利益相反を避けるための仕組み)。経営者と中立な第三者が、1対1で向き合う枠組みだと理解してください。
あわせて、混同しやすい点を整理します。「SECURITY ACTION」(★一つ星/★★二つ星の宣言)は”加点”ではなく、申請の基本要件(必須)です。第2回公募以降は、2026年4月に運用開始した「SECURITY ACTION管理システム」での宣言でも申請できるようになりました——これは手続き(宣言方法)の変更であって、加点が増えたわけではありません。
新しく使える加点が増えた今、次に申請するなら、いつを狙うべきでしょうか。
8. 次に狙うなら何次か(残り日程と逆算)
残りの公募スケジュールは、次のとおりです。
| 回次 | 締切 | 交付決定(予定) |
|---|---|---|
| 1次 | 5/12(終了) | 6/18(本記事の結果) |
| 2次 | 6/15(終了) | 7/23 |
| 3次 | 7/21 | 9/2 |
| 4次 | 8/25 | 10/7 |
第3回(3次)からは、前章のデジタル化セカンドオピニオン加点が使えます。新加点を活かす意味でも、3次(7月21日締切)が一つの狙い目です。
ただし、申請は「思い立ってすぐ」では間に合いません。逆算して準備すべきものが複数あります。
- GビズIDプライムの取得(原則約2週間。これがないとスタートできません)
- SECURITY ACTIONの宣言(★一つ星/★★二つ星)※申請の基本要件
- 加点書類の準備(賃金状況報告シート①②、IT戦略ナビwithの結果 など)
- 賃上げ計画の策定と、従業員への表明
- 1人当たり給与支給総額の算定(第4章の定義に沿って正確に)
採択率という数字に一喜一憂するよりも、「予算は据え置き × 要件は複雑化」という構造を理解し、加点を計画的に積むこと。これが、通年水準のなかで採択を引き寄せる近道です。
9. まとめ|数字に振り回されず、構造で備える
最後に、要点を振り返ります。
- 第1回の採択率は通常枠43.94%・インボイス枠46.88%
- 「前年1次」と比べると急落に見えるが、「年度通算」(通常 約37.9%・インボイス 約46.2%)と比べれば急落ではない(通常枠はむしろ上、インボイスは横ばい)
- 比べる相手は1次同士ではなく通年。2026第1回は通年水準の近辺で開幕した
- 低めの通年水準を支える構造=予算据え置き(3,400億円)× 要件の複雑化
- 要件の複雑化=給与(1人当たり給与支給総額)の算定と、賃上げ加点シート①②
- 結果を分けるのは加点の積み上げ(全15項目)
- 第3回からは新加点デジタル化セカンドオピニオンが登場
- 次に狙うなら3次(7/21締切)。GビズID取得など逆算準備を
数字の見出しは、ときに実態を見えにくくします。「急落」という言葉に振り回されるより、自社が通年水準のなかで加点をどう積めるか——そこに目を向けることが、採択への一歩です(なお、要件や加点を満たしても採択を保証するものではありません)。
とはいえ、「自社のITツールが対象になるのか」「給与支給総額の算定や賃上げ加点をどう整えればいいのか」「申請書をどう組み立てるか」——迷いどころは少なくありません。
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出典・参照資料(一次情報)
本記事の制度内容・数字は、以下の公表資料にもとづきます。
- 中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026 概要」
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局ポータル「公募要領(通常枠)」(加点項目/第3回からのデジタル化セカンドオピニオン加点/SECURITY ACTION要件/給与支給総額の算定/賃金状況報告シート①②/2026年5月15日改訂履歴)
- 事務局「デジタル化セカンドオピニオンマニュアル(通常枠・申請者向け)」2026年6月12日
- 第1回採択結果(事務局公表 交付決定数ベース)
- IT導入補助金2025 採択結果の推移・年度通算
- 中小企業庁「中小企業対策関連予算」(中小企業生産性革命推進事業 補正3,400億円=前年同額)
※本記事はデジタル化・AI導入補助金2026 第1回(1次締切)の公表結果および公募要領(通常枠)に基づきます。制度・日程・加点は変更される可能性があるため、最新情報は必ず事務局公式サイトでご確認ください。









