繊維業の会社から、ホームページを通じて「勤怠管理システムを導入したい」とご相談をいただいたことがありました。
詳しくお話を伺う中で分かったのが、外国人材を受け入れる際の要件として、勤怠管理の電子化が求められる場合があるということです。
一般的な労務管理では、労働時間を適切に記録できていれば、紙のタイムカードを使用することもあります。しかし、繊維業における外国人材の受け入れでは、勤怠管理の方法について一定の要件が設けられており、単に勤怠データをExcelへ出力できるだけでは要件を満たさないケースもあります。
さらに、2027年4月から始まる「育成就労制度」に向けて、今後の勤怠管理の見直しを検討している事業者も少なくありません。
この記事では、繊維業で外国人材を受け入れる企業が、勤怠管理についてどのような点を確認し、どのように準備を進めればよいのかを分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- 自分の会社が対象になるかどうか
- 「勤怠管理の電子化」で求められる5つのこと
- 2027年4月から逆算した準備の順番
- 国の登録システム76件からの選び方
繊維業にだけある「4つの条件」
特定技能という在留資格で、繊維(紡織製品の製造・縫製)の外国人を受け入れるには、ほかの製造業にはない条件が4つあります。
- 国際的な人権基準に沿って事業をしていること
- 勤怠管理を電子化していること
- 「パートナーシップ構築宣言」をしていること
- 外国人スタッフの給与を月給制にすること
この4つがそろっているかは、受入れ企業が入会する団体「JAIM(工業製品製造技能人材機構)」が、入会のときと毎年度の更新のときに確認します。
なぜ繊維業だけなのかというと、経済産業省は繊維業の技能実習で「賃金の支払いに関する違反が多い」ことを理由に挙げています。
ですが実際には、令和7年の労働基準監督署の監督指導で違反が見つかった割合は、繊維・衣服が72.5%、全業種が73.2%と、ほぼ同じでした。繊維業が特別に悪いというより、「きちんと払っていることを記録で示せる状態にしてください」という条件だと私は受け止めています。
では、特定技能ではなく技能実習だけの会社は関係ないのでしょうか。ここが2026年に大きく変わりました。
2027年4月、育成就労でも同じ条件が必要に
2027年4月1日、技能実習に代わって「育成就労」という制度が始まります。
2026年7月16日、経済産業省などでつくる協議会が、繊維業では育成就労でも同じ4つの条件を求めると決めました。
猶予があるのは1つ目の人権基準だけで、2032年3月末までは「研修の受講と自己チェック」で代えることができます。ですが、勤怠管理の電子化、月給制、パートナーシップ構築宣言には猶予がありません。
ただし、特定技能への切り替えや育成就労での受入れのときに必要になります。
いま技能実習生を受け入れている会社は、次のように整理できます。
- 2027年4月1日の時点で技能実習中の方は、一定の要件のもとで、そのまま技能実習を続けられます。
- 実習生に特定技能へ切り替えて残ってもらう場合は、切り替えの時点で4つの条件が必要です。
- 2027年4月以降に新しく育成就労で受け入れる場合も、4つの条件が必要です。
もう一つ大事なのが順番です。育成就労の計画を申請する前にJAIMへ入会している必要があり、入会のときに条件が確認されます。計画の申請は2026年9月から受付が始まっています。
つまり、2027年4月から育成就労で受け入れたい会社にとっては、勤怠管理の電子化は「そのうち」ではなく「いま」の準備です。
では、「電子化」とは具体的に何をすればよいのでしょうか。
「電子化」で求められる5つのこと
経済産業省は、勤怠管理の電子化として次の5つを示しています。
ポイントは、タブレット1台を職場に置き、自分の名前をタップして打刻する方法でも認められることです。スマホを持っていない方がいても、対応はできます。
一方で、次のようなやり方は条件を満たしません。
- 紙のタイムカードを、事務の方がエクセルに書き写している
- 打刻機からCSVで出して、エクセルで集計している(エクセルで簡単に書き換えられるため、と明記されています)
- 打ち忘れを、事務の方が本人に断らずに直している
3つ目は特に見落としやすいところです。条件は「システムを入れること」だけではありません。打刻を直すときのルールまで含まれています。
ただし、実際の運用はそれほど複雑ではありません。私たちが導入をお手伝いするときは、打ち忘れや修正があると本人と直属の上司に通知が届くように設定し、本人が打刻の申請を出して上司が承認する流れにすることがほとんどです。本人が申請し、その記録が残るので、この条件にもそのまま沿った運用になります。
私は、この条件は会社を守る仕組みにもなると考えています。実際に、縫製会社が事実と違うタイムカードと賃金台帳を出して送検された事例が公表されています。直した記録まで残っていれば、「うちは正しく払っています」と胸を張って示せます。
それに、メリットは証明のしやすさだけではありません。集計が楽になるだけでなく、書き写しの作業がなくなることで、本人が打刻したデータをそのまま給与計算に活用しやすくなります。人の手による転記が増えるほど、どうしても入力ミスや確認作業も増えてしまいます。
勤怠管理を電子化することで、こうしたミスの防止や確認作業の負担軽減につながり、給与計算を担当する方にとっても、より安心して業務を進めやすくなります。私は、こうした日々の負担を減らせることも大きなメリットだと考えています。
では、条件を満たすシステムはどう選べばよいのでしょうか。
登録システム76件から、どう選ぶか
経済産業省は、条件を満たす勤怠管理システムの一覧を公表しています。2026年9月11日時点で76件あり、KING OF TIME、ジョブカン、freee人事労務など、よく知られた製品も入っています。
一覧にないシステムでも、5つの条件を満たしていることを画面の写真などで示せば認められます。ただ、その分手間がかかるので、一覧から選ぶのが近道です。
気をつけたいのは、一覧に載っていることと、自分の会社に合うことは別だという点です。私たちが導入をお手伝いするときは、次の3つを見ています。
1つ目の打刻のしかたで、会社ともめることは実はほとんどありません。いくつかの方法をお見せして、工場のように出勤・退勤の時間に人が集中する職場なら据え置きの打刻機、外回りなどで働く場所を把握したい場合はスマホアプリ、というように働き方に合わせて選んでいただいています。
3つ目の外国人スタッフについて。私たちが勤怠システムの導入をいちばん多くお手伝いしているのは、介護施設や社会福祉の分野です。介護の現場も外国人スタッフがとても多い職場です。業種は違っても、言葉の壁がある中で、打刻と修正の申請を本人ができるように整える点は共通しています。
実際に、経済産業省が紹介している染色整理業の会社(従業員12名)では、60代以上の従業員が多く、スマホを持っていない人もいたため、職場にタブレットを1台置き、クラウド勤怠の無料プランの範囲で始めました。打刻は「顔写真をタップして、出勤・退勤のボタンを押す」だけです。それまで経営者が毎月半日かけていたタイムカードの書き写しがなくなったそうです。
どの製品が合うかは、現場の打刻のしかたと給与計算の流れで決まります。製品名から先に選ばないことが、失敗しないコツです。
登録システムのどれが自社に合うか迷ったら、ご相談ください。特定の製品の代理店としてではなく、現場の打刻方法と給与計算から逆算して一緒に選びます。
紙から電子へ、失敗しない移行の順番
選んだあとは、次の順番で進めると現場が混乱しにくくなります。
- 今のやり方を書き出す:勤務形態、シフト、残業や休憩のルール、使っている給与ソフト、打刻する場所
- 候補を2〜3製品に絞る:無料体験で、実際に現場の人に触ってもらう
- 設定する:打刻の修正は本人の申請と管理者の承認で行い、修正した記録が残るようにする。給与ソフトとのつなぎ込みもここで行う
- 1か月ほど紙と並行して使う:ずれがないかを確かめる
- 切り替えて、提出用の写真を用意する:JAIMに出す打刻機器の設置写真や画面の写真
切り替えた直後は、やはり打ち忘れが増えます。紙と並行して使う期間を設けておくと、慌てずに済みます。
一方で、導入前にいちばん心配されることが多い年配の方の打刻は、思ったよりスムーズにいったという声が多いです。
導入後には、「出したいデータを思いどおりに自動で出せるのが本当に助かっている」「給与計算との連携もスムーズで、とても楽になった」という声をいただいています。
月給制に切り替える場合は、就業規則や賃金規程の見直しが必要になることが多いです。規程の変更は社会保険労務士にご相談ください。私たちがお手伝いするのは、決まったルールを勤怠システムと給与計算に正しく反映するところです。
ここまでは受入れ企業の話でした。最後に、企業を支える側の方にもお伝えしたいことがあります。
監理団体・登録支援機関の方へ
育成就労では、監理支援機関にも繊維業向けの取り組みが求められます。
組合員の会社が「面倒だ」と止まってしまう理由の多くは、どこから手をつければいいのか分からないことです。まずは次の10問で、今の状態を確かめてみてください。
勤怠管理の電子化 自社チェック10問
- 出退勤を紙やエクセルで記録していないか
- 打刻データをCSVでエクセルに移していないか
- 打ち忘れを、事務の方が本人に断らずに直していないか
- 直す前と後の時刻が、画面で確認できるか
- 打刻する場所に、全員が使える端末があるか
- 給与計算ソフトに、データが自動で渡っているか
- 月給制にした場合の計算を設定できているか
- 外国人スタッフが一人で打刻・修正の申請をできるか
- JAIMに出す写真(機器・画面)を用意できるか
- 2027年4月から逆算した日程が決まっているか
1つでも「いいえ」があれば、準備が必要です。
よくある質問
- 技能実習生しか受け入れていません。今すぐ必要ですか?
今の技能実習では、勤怠管理の電子化は義務になっていません。ただし、実習生に特定技能へ切り替えて残ってもらう場合や、2027年4月以降に育成就労で受け入れる場合には必要です。
- 紙のタイムカードは違法なのですか?
違法ではありません。法律上、紙のタイムカードも客観的な記録として認められています。繊維業で外国人を受け入れる場合の条件が、それより厳しいということです。
- CSVで出せる勤怠ソフトなら大丈夫ですか?
CSVをエクセルで集計するやり方は、簡単に書き換えられるため認められていません。
- 登録一覧にないシステムでは駄目ですか?
5つの条件を満たしていることを画面の写真などで示せば認められます。ただし、その分の手間がかかります。
- 打ち忘れを管理者が直してもいいですか?
原則は本人が直します。本人が同意すれば管理者も直せますが、直す前と後の時刻が両方確認できる必要があります。
- スマホを持っていない従業員がいます。
職場にタブレットを1台置き、名前をタップして打刻する方法も認められています。
「しなきゃ」を減らす入口として
勤怠管理の電子化は、繊維業において適切な労務管理を行うための手段の一つです。外国人スタッフを含め、従業員が安心して長く働ける環境づくりにつながるほか、月末の勤怠集計や転記作業を減らし、事務担当者の負担軽減にもつながります。
「しなきゃ」を減らして、「やりたい」を増やそう。私たちは、この言葉を大切にしています。
勤怠管理の電子化は、単に紙をデジタルに置き換えることではありません。日々の管理業務にかかる手間を減らし、その分の時間を、本来取り組みたい仕事やこれから挑戦したいことに使えるようにするための一歩です。
経営者も、事務担当者も、現場で働くスタッフも、それぞれがより本来の仕事に向き合える環境をつくること。その積み重ねが、働きやすさや会社全体の成長にもつながっていくと、私たちは考えています。
勤怠管理の見直しを、「しなきゃ」を一つ減らすきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
初回のご相談は無料です。今の勤怠のつけ方と給与計算の流れを伺い、条件を満たすまでの道筋を一緒に考えます。
ご注意
- この記事は2026年9月時点の公表資料にもとづいています。制度は変わることがあるため、最新の情報は経済産業省・JAIMの公式情報でご確認ください。
- 在留資格の手続きは行政書士、就業規則・賃金規程の変更は社会保険労務士の業務です。当社は勤怠管理システムの選定・設定・定着をお手伝いします。









