日本の総合経済対策とは?目的と概要を解説
日本の総合経済対策は、国内外の経済状況に対応し、国民生活の安定や経済成長の実現を目的として政府が策定する包括的な政策パッケージです。これには、物価高騰対策や賃金の引き上げ、デジタル化の推進、社会基盤の強化など、多岐にわたる施策が含まれています。
総合経済対策の背景と3つの柱
日本は過去30年、バブル崩壊、デフレ、金融危機、自然災害、コロナ禍といった多くの困難を克服し、名目GDP600兆円超や33年ぶりの高賃上げ率達成など成長の兆しを見せています。現在、賃上げと投資を軸とした成長型経済への移行が分岐点にあり、さらなる政策の推進が求められています。
具体的には以下の3つの柱が掲げられています。
1.賃金・所得増加を促進する成長戦略
人への投資や中小企業支援を強化し、デジタル・グリーン技術やスタートアップ分野に官民連携で投資。地方経済と日本全体の成長を実現し、国民が豊かさを実感できる社会を目指します。
2.物価高克服と家計支援
物価高の影響を受ける家計や事業者を支援し、エネルギーコストの負担軽減や経済社会の強化を進めます。
3.国民の安心・安全の確保
自然災害への復旧・復興、防災・減災対策、外交や安全保障の強化を進め、成長型経済への基盤を築きます。
さらに、「経済あっての財政」を理念に、デフレ脱却と成長経済の実現、財政改善を両立し、危機に強い持続可能な経済・財政を構築。国民全体が安心と安全を感じられる未来の実現を目指します。
賃上げ環境の整備 足元の賃上げに向けた主な取組の概要
2024年度の最低賃金は全国平均で1,055円に引き上げられ、2021年以降連続で過去最高の引上げ幅(51円)を記録しました。政府は、2020年代に最低賃金全国平均1,500円を目指すために様々な支援を行っています。特に、5つの重点的な支援策について解説していきます。
①価格転嫁を含む取引適正化の取り組み
中小企業が賃上げの原資を確保するには、価格転嫁を円滑に進める環境整備が不可欠です。価格転嫁は発注者と受注者の共存共栄を実現し、サプライチェーン全体の持続可能性を確保するための基盤でもあります。政府はこれまで、下請取引における調査や交渉促進、指針の公表を通じてこの課題に対応してきました。
2023年11月に公表された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、価格交渉の推進が一定の成果を挙げましたが、さらなる強化が必要とされています。このため、下請Gメンによる調査に加え、「下請かけこみ寺」との連携により取引実態の情報収集を強化し、公正取引委員会と事業所管省庁が協力して問題解決にあたる体制を整備します。また、大企業と中小企業のパートナーシップ構築宣言の普及と実効性向上を進めます。
2024年末までに業界団体と連携して指針の遵守状況を調査し、改善措置を実施。取引適正化の意識を高めるため、ショート動画やSNS広告を活用した周知も行います。さらに、下請法の改正を検討し、価格据置きや物流取引への対応などを含む新たなルールを構築します。
資金繰りの負担軽減を目的として、約束手形の現金払い化や2026年の廃止に向けた取り組みも推進されます。2024年には手形サイト短縮の指導基準を見直し、広く周知を進めます。
建設業や物流業では、「担い手三法」や改正物流法を施行し、重層下請構造の適正化や適正な価格転嫁を促進。労務費を含む価格転嫁を業界全体に定着させ、賃金の引上げ基盤を強化します。警備業や自動車整備業についても実態調査を行い、賃金や取引環境の改善を目指します。
クリエイター分野では、公正取引委員会による取引慣行の実態調査を実施。2025年には映画やアニメ分野の取引環境を調査し、適正な対価還元や労働環境改善を進めます。また、クリエイター作品の権利情報を管理・検索するシステムを構築し、対価が適切に還元される仕組みを整えます。
これらの施策を通じて、価格転嫁を含む取引適正化を推進し、中小企業や労働者が安定した環境で働ける持続可能な経済基盤を構築します。
②最低賃金の引上げ業務改善助成金と賃上げ促進税制
2024年度の最低賃金は全国加重平均で1,055円となり、引上げ幅は過去最高の51円を記録しました。政府は2020年代に全国平均1,500円という目標達成を掲げ、適切な価格転嫁と生産性向上を通じて最低賃金の引上げを推進しています。
さらに、地域間格差の是正を図るため、地域別最低賃金の最低額を引き上げる方針です。中小企業が最低賃金引上げに対応できるよう、業務改善や設備投資の支援を拡充。相談体制を強化し、改正賃上げ促進税制の活用促進を図ります。また、デジタル化投資や多様な人材が働きやすい環境整備を進めるなど、総合的な施策を展開します。
国の施策例①:業務改善助成金(厚生労働省)
最低賃金の引上げに対応するための業務改善助成金(厚生労働省)は、中小企業が生産性を向上させながら賃金を改善するための支援を目的とした助成金です。この制度では、労働者の賃金引上げを行う中小企業に対し、業務の効率化や設備投資などの費用の一部を助成します。
具体的には、新しい機械設備の導入や業務プロセスの見直しなど、生産性を高める取り組みが対象となります。この助成金により、最低賃金の引上げによる負担軽減を図り、事業の成長と従業員の待遇改善を両立させることを目指しています。
助成率は、 事業場内最低賃金が900円未満の場合、4/5(生産性要件を満たす場合は9/10)
※助成額は、事業場内最低賃金額に応じて異なります。
③賃上げ促進税制
令和6年度税制改正により拡充された賃上げ促進税制は、企業が賃金を増加させる際の負担軽減を目的としています。賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与支給額を前年度より増加させた場合、その増加分の一定割合を法人税や所得税から控除できる制度です。この税制は、企業規模に応じて「全企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3種類があり、それぞれ適用要件や控除率が異なります。具体的な控除率や要件については、経済産業省の公式ウェブサイトをご覧ください。
【節税効果の仕組み】
①控除率(法人税の場合)
・中小企業の場合: 給与総額が前年度比で一定割合以上増加した場合、増加額の最大40%を控除可能とする。
・大企業の場合: 増加額の最大30%を控除可能とする。
②適用条件
前年度比で従業員の給与総額を3%以上増加させることが主な条件です。
人材育成や教育訓練費の支出が条件に含まれる場合もあります。
③奨学金返還の代理負担
対象企業が従業員の奨学金返還を肩代わりする費用も、給与支給額としてカウントされ、控除対象になります。
④省力化・デジタル化投資
人手不足が深刻化する中、政府は中小企業の生産性向上を目指し、省力化やデジタル化への投資を支援(IT導入補助金)しています。これには、汎用製品の導入だけでなく、各事業者のニーズに応じたソフトウェアの選定やITシステムの導入を含みます。特に、製造現場だけでなく、会計事務や事務作業の効率化を支援し、導入後のサポート体制も整備されます。
会計事務や勤怠管理のITツールの導入をご検討の方、相談して欲しいという方は、当社のITツールの導入設定サポートをご検討ください。↓のページに詳細がございます。
また、業務特性に応じたオーダーメイド型の省力化投資(ものづくり補助金)が推進されており、各業種の課題に対応する具体的な計画が各省庁によって策定されています。地方での賃上げ実現を目指し、中堅・中小企業が新工場の設立や設備投資を行う際にも支援(大規模成長投資補助金)が行われ、地域への産業立地を促進するための施策も進められています。
具体的には、地域未来投資促進法を活用し、土地利用の迅速化や産業用地確保を支援するほか、省力化投資を含む賃上げに向けた補助金制度(中小企業省力化投資補助金)や、製造業・サービス業向けのロボット開発環境整備などが展開されています。
下記に主な取組を紹介します。特に、中小企業向けの省力化・生産性向上投資支援は大変活用しやすい補助金のため、ぜひ来年ご活用ください。
①地域未来投資促進税制(経済産業省)
地域未来投資促進税制は、地方の産業活性化を目的に、地域の特性や強みを活かした事業を行う企業に対して税制優遇を提供する制度です。この税制は、地域未来投資促進法に基づき、地域経済を牽引する事業の設備投資を支援するために設けられました。
具体的には、対象となる設備投資に対して、法人税等の特別償却(最大50%)または税額控除(最大5%)を受けることが可能です。さらに、都道府県や市町村の条例に基づき、固定資産税や不動産取得税の課税免除または不均一課税といった地方税の優遇措置を受けられる場合もあります。
これらの優遇措置を受けるためには、地域経済牽引事業計画の承認や主務大臣の確認など、所定の手続きが必要となります。
②中小企業向けの省力化・生産性向上投資支援(経済産業省)
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が経営課題を解決するためのITツールを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。これにより、業務効率化や売上向上を目指す企業のデジタル化を支援する補助金です。
補助金の申請は、申請手続きや導入支援は、IT導入支援事業者がサポートします。また、導入したいシステムやサービスが明確でない場合でも、専門家とのリモート相談を通じて適切なITツールの選定を支援する「みらデジ経営チェック」などのサービスも提供されています。
この補助金を活用することで、企業はデジタル化を推進し、業務の効率化や生産性の向上を図ることが期待されます。
当社では、IT導入補助金の申請サポートメニューを提供しておりますので、支援を受けたい方、相談に乗ってほしい方は、↓のページを御覧いただき、お問い合わせください。
来年度の変更点
通常枠において最低賃金近傍の従業員を抱える事業者 (※) 補助率を 1/2から2/3 に引上げられる予定
※3か月以上地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる場合
今回の変更点は、通常枠の補助率が1/2が2/3に引き上げられるメリットがあるため、賃上げをしつつ、投資促進を図るためにも、有効な補助金として活用したいところです。
また、上記の要件に該当し、IT関連のソフトウェアだけではなく、機械設備等ハードウェアも投資も行いたい場合は、業務改善助成金の活用も並行して行うことで、投資を促進することができます。
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業等が、IoTやロボットなどの省力化製品を導入する際の費用の一部を補助する制度です。これにより、生産性向上や付加価値額の増加を図り、最終的には賃上げにつなげることを目的としています。
補助率と補助上限額
補助率は対象経費の1/2以内で、補助上限額は企業の従業員数に応じて設定されています。
- 従業員数5名以下:上限200万円(賃上げ要件を達成した場合は300万円)
- 従業員数6~20名:上限500万円(同750万円)
- 従業員数21名以上:上限1,000万円(同1,500万円)
※()の数字は賃上げ要件を満たすことで、補助上限額が引き上げられます。
この補助金を活用することで、中小企業は省力化投資を促進し、生産性の向上と持続的な賃上げを実現することが期待されています。
当社では、省力化補助金の申請サポートメニューを提供しておりますので、支援を受けたい方、相談に乗ってほしい方は、↓のページを御覧いただき、お問い合わせください。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称:ものづくり補助金)は、中小企業や小規模事業者が取り組む革新的なサービス開発、試作品開発、生産プロセスの改善などに対する設備投資を支援する制度です。この補助金は、生産性向上を目的とした新しい技術や設備の導入を後押しし、競争力強化や新規事業の展開を支援します。
特に、ものづくり補助金の「省力化(オーダーメイド)枠」は、中小企業や小規模事業者が人手不足の解消や生産プロセスの効率化を目的として、各事業者の業務内容に適したオーダーメイド型の省力化投資を支援するために新設された枠組みです。
補助率と補助上限額:
- 補助率: 補助金額1,500万円までは2分の1、1,500万円を超える部分は3分の1。
- 補助上限額: 従業員規模に応じて設定されています。
従業員規模 | 補助上限額 | 大幅賃上げ特例適用時の補助上限額 |
---|---|---|
5人以下 | 750万円以内 | 1,000万円以内 |
6~20人 | 1,500万円以内 | 2,000万円以内 |
21~50人 | 3,000万円以内 | 4,000万円以内 |
51~99人 | 5,000万円以内 | 6,500万円以内 |
100人以上 | 8,000万円以内 | 1億円以内 |
※大幅賃上げに係る補助上限額引き上げの特例を適用した場合の金額を括弧内に示しています。
⑤中堅・中小企業の経営基盤の強化・成長の支援
政府は、中小企業の稼ぐ力を強化し、持続可能な賃上げを実現するために、多角的な支援策を展開しています。これには、事業承継やM&Aの推進、金融支援、生産性向上、デジタル化支援などが含まれます。
1. M&Aおよび事業承継の環境整備
中小企業がM&Aや事業承継を通じて成長を目指せるよう、以下の取り組みを進めています。
- 中小M&Aガイドラインの周知: 2024年8月改訂版を周知徹底し、M&Aに伴うトラブルの防止を図ります。
- PMI(Post-Merger Integration)の定着: 中小PMIガイドラインと実践ツールを活用し、M&A後の経営統合や成長支援を強化します。
- 税制の活用促進: 複数回のM&Aを後押しするため、中堅・中小グループ化税制を積極的に活用します。また、事業承継税制の特例措置について、役員就任要件の見直しを検討中です。
- 事業承継・引継ぎ支援センター: 中小企業や小規模事業者の事業承継支援を充実させています。
2. 中小企業の資金調達の円滑化
資金繰りの安定と成長資金の確保を目指し、次の施策が実施されています。
- 信用保証料の引き下げ: 民間金融機関が行う信用保証付き融資において、中小企業の保証料を軽減。
- 協調支援型の信用保証制度: 中小企業への信用保証を強化し、資金調達の負担を軽減。
- 資本性劣後ローンの利用促進: 成長志向の中小企業が長期の資金調達を行いやすい仕組みを拡充。
- 再生計画の支援: 中小企業活性化協議会が経営改善や事業再生を支援し、再チャレンジを後押しします。
3. 生産性向上と成長支援
中小企業が競争力を高めるため、生産性向上や事業拡大を支援しています。
- 設備投資支援: 売上高100億円超を目指す企業に対し、官民ファンドからのリスクマネー供給やハンズオン支援を実施。
- 海外展開の支援: 国際協力銀行(JBIC)と地域金融機関が連携し、成長力を持つ中堅・中小企業の海外進出をサポート。
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進: 地域DX推進ラボやよろず支援拠点を活用し、IT導入・活用支援を強化。
4. 小規模事業者の振興
持続的な発展を目指し、商工会や商工会議所を中心に小規模事業者への支援を強化します。
- 広域連携の促進: 地域ごとの商工会・商工会議所が連携し、事業者支援の効率化を図ります。
- 基本計画の見直し: 小規模企業振興基本計画を2024年度内に見直し、新たな支援策を打ち出します。
中小M&Aガイドライン: 安心してM&Aを行える環境整備。
協調支援型信用保証制度: 保証料軽減と資金調達支援。
中小企業活性化協議会: 再生計画策定のサポート。
地域DX推進ラボ: IT導入による生産性向上を支援。
官民ファンド支援: 売上高100億円を目指す中小企業への資金供給。
まとめ
内閣府のホームページから情報を仕入れることはないかと思いますが、今回は国のこれまでの取り組みの背景や理由、今後の方向性について解説しました。来年度の方向性が国の方向性とズレていることは問題ではありませんが、国の流れに乗った事業の方向性を決めていくこと重要なのではないかと考えます。
「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」という大きなテーマに対して、私たち企業が重要なことは成長していくために、今自分たちが何ができるのか、お客様に対してどのようなベネフィットを提供できるかを考え、行動し続けることが国策として求められているのではないでしょうか。
スポット的に補助金を営業ツールとして活用するのではなく、その先にお客様が求めるニーズや付加価値を提供し、顧客の満足度を高め、喜んでいただけるような商品・サービスが提供できるように、切磋琢磨していきましょう。
今回の記事を読んでいただいた方々にお礼を申しあげます。弊社はソフトウェアの導入設定や導入サポート事業を主に行っています。賃上げをするために生産性を高めていけるようなソフトウェアの導入や、日頃お困りごとがありましたら、ぜひ、ご相談ください。よろしくお願いします。
引用:
本記事は、内閣府の「2024年総合経済対策」(PDFリンク)を参考にしています。