令和8年度 観光庁予算概算要求を徹底解説|観光事業者が押さえるべき補助金の最新動向

令和8年度の観光庁関係予算概算要求は813億5900万円と、前年から1.3倍に増加しました。この伸びは、インバウンド需要の回復や地方誘客の加速、そして災害復興に向けた支援を背景にしています。

観光は日本の成長戦略の柱であり、インバウンド拡大や地域活性化を担う産業です。コロナ禍で観光は壊滅的な打撃を受けましたが、コロナ収束後は過去最高を更新し続ける勢いで伸びています。2025年の訪日外客数は1~7月まででおよそ2,500万人ですが、これは過去最高を記録した2024年よりも+18.4%増のペースで伸びている計算になります。政府は、2030年までに年間6,000万人の訪日外客数を目標としており、さらなる観光産業の強化を推進しております。

特に観光事業者や宿泊事業者にとって注目すべきは、「人材不足対策」「インバウンド推進」「ユニバーサルツーリズム」「地域周遊観光」など、民間事業者が直接関与できる補助金関連の事業です。本記事では、概算要求の主要ポイントを初心者にもわかりやすく整理し、今後の事業戦略に役立つ情報を提供します。


目次

観光庁予算概算要求の全体像と前年度比較

令和7年度予算は約587億円でしたが、令和8年度は約814億円が要求され、約1.4倍の増額となりました。

【主要予算比較(百万円)】

分野      R7年度R8年度増減率特徴
持続可能な観光  1,5732,289+46%基盤整備から人材・復興へ
インバウンド誘客 6,1606,879+12%量から質への転換
国内交流拡大   406726+79%関係人口・ユニバーサル施策強化
復興枠      765665-13%福島
旅客税枠     49,00070,000+43%出入国手続の高度化、世界水準の受入環境整備など

令和8年度 観光庁予算概算要求の注目ポイント

昨年度は「観光地経営」「民泊健全化」「観光統計」など制度基盤整備が中心でした。令和8年度は22.89億円と+46%増額され、重点は「人材不足対策」と「災害復興」となります。

(1)持続可能な観光地域づくり ー 人材不足対策事業の補助上限額が1,000万円に

観光産業の基盤強化として、「地域一体となった持続可能な観光地経営推進事業」(9.1億円要求)が拡充されます。ここでは、地域の観光ビジョン策定やオーバーツーリズム対策、交通空白地域への対応が重点です。

また、宿泊業を中心に深刻化する人材不足に対応するため、令和8年度は「観光地・観光産業における人材不足対策事業」に3億円が計上されました。具体的には、自動チェックイン機や配膳ロボットなどのDX設備投資、外国人材確保のためのジョブフェア、教育プログラムの充実など、短期・中期・長期にわたる人材不足対策が用意されています。特に、宿泊事業者が補助対象の、自動チェックイン機や配膳ロボットなどのDX設備投資は、補助額が前年までの上限500万円から倍の上限1,000万円に拡充されています。予算が前年の6倍になったとは言え、予算がなくなり次第終了となります。したがって早めの情報収集と申請準備をしておくと良いでしょう。

出典:観光庁「令和8年度 観光庁関係予算概算要求概要

能登半島の災害復興と観光再生支援

能登半島地震からの復興支援として、新たに1億円が要求されています。これには、観光事業者の経営高度化支援、営業再開に向けた人材確保、誘客促進のためのコンテンツ造成、プロモーションなどが対象となります。

「持続可能な観光地域づくり」前年度との比較表(百万円)

施策      R7年度R8年度増減率解説
地域一体となった持続可能な観光地経営推進事業 670910+36%DMO主導から住民共生型へ進化
観光地・観光産業における人材不足対策事業 50300+500%DX・ロボット・外国人材活用を明示
観光統計の整備673793+18%EBPM・リアルタイム統計
通訳ガイド制度の充実・強化7381+11%地方部の外国語対応強化
健全な民泊サービスの普及   107105-2%量から質、違法排除へ移行
能登復興    100新規観光を復興の柱に位置づけ

解説:令和7年度は「制度の安定化」が狙いでしたが、令和8年度は観光産業の最大課題である人材不足に本格対応。さらに能登半島地震対応を新設し、観光を災害復興の手段と位置づけました。

(2)地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組

地方部での滞在促進を目的とした「地域周遊観光促進事業」には5.45億円が要求されています。長期滞在型ツアーやOTA(オンライン旅行代理店)での販路拡大、SNSを活用した情報発信が支援対象です。さらに、訪日プロモーションのための予算は58.5億円に拡充され、JNTOを通じた市場別キャンペーンやテーマ別プロモーションが予定されています。また、MICE誘致も前年度比2倍近い3.44億円に増額され、地方都市での国際会議やイベント開催を後押しします。観光事業者は、これらの支援を活用し、地域独自のコンテンツを海外市場へ発信するチャンスです。

「地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組」前年度との比較表(百万円)

施策       R7年度R8年度増減率解説
戦略的な訪日プロモーションの実施5,5005,850+6%欧米豪・高付加価値層へ重点化
地方部での滞在促進のための地域周遊観光促進事業445545+22%ゴールデンルート集中打破
MICE誘致の促進    179344+92%国際競争力強化、近隣国対抗
海外教育旅行を通じた若者の国際交流の促進    2040+100%リピーター育成、未来投資
外国人向け消費税免税制度の「リファンド方式」移行支援事業等   16100+525%リファンド方式移行の混乱防止

(3)国内交流拡大 - ユニバーサルツーリズム促進事業の予算が前年比13.3倍に

国内需要拡大を狙い、「新たな交流市場・観光資源の創出事業」(3.26億円)と「ユニバーサルツーリズム環境整備」(4億円)が重点的に組まれています。特にユニバーサルツーリズム関連予算は前年の13倍以上の拡大となりました。ユニバーサルツーリズム関連予算では、宿泊施設や観光施設のバリアフリー化に補助金を活用できます。高齢化社会に対応する観光整備は今後の大きな成長分野であり、事業者にとっては施設改修や新サービス開発の追い風となります。

出典:観光庁「令和8年度 観光庁関係予算概算要求概要

施策       R7年度R8年度増減率解説
新たな交流市場・観光資源の創出事業326326±0%第2のふるさとづくり
ユニバーサルツーリズムの促進に向けた環境整備30400+333%バリアフリー化

インバウンド観光が2030年に目指すところ

政府は、2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円を目指しています。2024年は訪日外国人旅行者数3,687万人、消費額8.1兆円だったことを踏まえると、非常に高い目標であることが分かります。

この2030年目標に向けて、地方誘客や人材不足対策などを今以上に強化して推進していく方針です。

出典:観光庁「令和8年度概算要求概要」

まとめ:観光事業者が取るべき次の一手

令和8年度観光庁概算要求は、観光業界にとって大きな転換点となる内容です。人材不足への抜本対策、インバウンド需要の拡大、ユニバーサルツーリズム推進など、多岐にわたる施策が予算化され、民間事業者が直接活用できる補助金が多数盛り込まれています。しかし、予算がなくなり次第終了してしまうため、観光事業者や宿泊事業者は早めに対象事業を見極め、申請準備を進めることが重要です。
今後の採択スケジュールや詳細公募情報は、観光庁公式ページや各種補助金ポータルに随時掲載される予定です。ぜひ自社に合った補助金を活用し、来年の事業展開を加速させましょう。

【参考】

この記事を書いた人

株式会社 ai-soumu(エーアイソウム)
代表取締役 上瀬戸研次
中小企業診断士

事業会社にて18年に渡り経理・総務・人事・情報部門といったバックオフィス業務に従事。
会社設立後はバックオフィスの業務改善・DXの専門家として、IT導入補助金を活用してクラウド会計をはじめ、各種SaaSの販売および導入支援を行う。

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