補助金に申請したのに不採択だった——
そんな苦い経験をもつ中小企業の経営者・担当者は少なくありません。デジタル化・AI導入補助金(2025年度まではIT導入補助金の名称で実施)は、中小企業が低コストでITツールを導入できる強力な制度です。しかし、申請すれば必ず採択されるわけではありません。
採択審査には「加点項目」と「減点項目」が設けられています。これらを正しく理解して対策することが採択率を上げる最大のポイントです。加点項目を複数クリアすれば合格の可能性はぐっと高まります。しかし、逆に減点項目に引っかかると、申請内容が充実していても採択を逃しかねません。
本記事では、通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)を中心に、デジタル化・AI導入補助金の採択率を上げるための加点・減点項目を徹底的に解説します。申請を検討している中小企業の経営者・補助金担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
デジタル化・AI導入補助金の採択率は今どのくらい?
通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)の採択率の推移
デジタル化・AI導入補助金(2025年度以前はIT導入補助金)は、年間を通じて複数回の公募が行われています。
まずは、IT導入補助金2025の各次公募の採択率を確認してみましょう。
通常枠は年度序盤の第1次公募で50.7%と比較的高い水準でスタートしました。しかし、その後は低下し、直近の第8次公募(令和8年1月公表)では35.9%となっています。
インボイス枠(インボイス対応類型)も同様の傾向です。第1次公募では57.6%だったものが、第8次公募では45.0%まで低下しています。いずれの枠も通年を通じて「申請しても半数前後が不採択」という厳しい状況が続いております。採択は決して保証されているものでは無いのです。

デジタル化・AI導入補助金の採択率を高める「加点項目」を徹底解説
補助金では、公募要領に定められた加点項目を満たすことで審査上の評価が高まります。加点は採択を保証するものではありませんが、採択率向上に直結する重要な要素です。まずは一覧表で全体像を把握してください。
【加点項目一覧表】(デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領に基づく)
| 加点項目 | 通常枠 | インボイス枠 (インボイス対応類型) |
|---|---|---|
| クラウドを利用したITツール導入の検討 | 〇 | - |
| インボイス対応ITツール導入の検討 | 〇 | - |
| 賃上げの事業計画の策定、従業員への表明、事業計画の達成 | 〇 | 〇 |
| 最低賃金に関する状況 | 〇 | 〇 |
| SECURITY ACTIONの「★★ 二つ星」の宣言を行っていること | - | - |
| 国の推進するセキュリティサービスを選定しているか | 〇 | 〇 |
| デジタル化支援ポータルサイト「デジwith」における「IT戦略ナビwith」を行っていること | 〇 | 〇 |
| 健康経営優良法人2026 | 〇 | 〇 |
| くるみん・えるぼし認定 | 〇 | 〇 |
| 成長加速マッチングサービスへの登録 | 〇 | 〇 |
| 省力化ナビの活用 | 〇 | 〇 |
| 交付申請時点でインボイス登録を行っておらず、実績報告日までにインボイス登録を行うこと | - | 〇 |
加点① 健康経営優良法人・くるみん・えるぼし認定
「健康経営優良法人」とは、経済産業省・日本健康会議が認定する制度で、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業を表彰するものです。「健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)」の認定を受けていると加点となります。
申請には、定期健診受診率の確保や健康経営宣言、経営者の関与などが求められます。そのため、認定まで半年以上かかることもあります。来年度以降の申請を見据えて、早めに動き出すことが重要です。
また、育児支援に積極的な企業に対する「くるみん認定」(厚生労働省)、女性活躍推進に取り組む企業への「えるぼし認定」(厚生労働省)も加点対象です。すでに認定を持っている企業は、忘れずに申請時に反映してください。
加点② 賃金引上げ
デジタル化・AI導入補助金2026では、生産性向上とともに従業員の賃上げにも取り組む事業者を優遇する「賃上げ加点」が設けられています。これは、補助金を単なるIT化支援にとどめず、「稼ぐ力」の強化と処遇改善の両立を促すという政策的な意図を反映したものです。
基本的な賃上げ要件(初回申請者)
今回が初めての申請(IT導入補助金2022〜2025での採択歴がない)事業者に共通する基本要件として、以下の賃金引上げ計画を交付申請時点で従業員に表明していることが求められます。
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること。※+50円以上の水準はさらなる加点
- 1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3%以上向上させること(日本銀行が定める「物価安定の目標」+1%水準)
2回目以降の申請者(IT導入補助金2022〜2025での採択歴あり)
IT導入補助金2022〜2025での採択歴があ場合は、より高い水準が求められます。 具体的には、1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上(日本銀行が定める「物価安定の目標」+1.5%水準)向上させることが必要です。これは新たに追加された要件であり、過去に一度採択を受けた事業者は特に注意が必要です。また、2026年度から計算指標が「給与支給総額」の年平均成長率から「1人当たり給与支給総額」の年平均成長率へと変更されている点も、2回目以降の申請者には重要な変更点です。
追加の加点措置(令和7年7月基準)
さらに、交付申請の直近月における事業場内最低賃金が、令和7年7月時点の事業場内最低賃金+63円以上の水準にある場合にも加点措置が付与されます。これは、既に積極的な賃上げを実施している事業者を特に評価する仕組みです。
現時点で賃上げが進んでいる事業者にとっては大きなアドバンテージとなります。自社の賃金水準を確認し、要件に該当するかどうかチェックしておきましょう。
加点③ 省力化ナビへの登録・活用
「省力化ナビ」は、中小企業基盤整備機構が提供するウェブサービスです。自社の生産性向上に向けた方向性を診断・整理できます。このサービスを活用し、必要な情報を登録することで加点対象となります。
登録自体は比較的短時間で行えるため、手間に対する効果が高い加点項目といえます。申請の準備と並行して、早めに完了させておきましょう。
【省力化ナビ】https://labour-saving.smrj.go.jp/
加点④ IT戦略ナビwith(デジwith)の実施
「IT戦略ナビwith」は、中小機構が運営する「デジwith」上で提供されるサービスです。自社のIT活用状況を診断し、今後のIT戦略を策定する取り組みを行うと加点対象となります。省力化ナビと同様に手間は少なく、加点効果の高い項目です。
IT戦略の策定は補助金申請のためだけでなく、自社の経営強化にも役立てることができます。まだ活用していない事業者は積極的に取り組んでみてください。
【IT戦略ナビwith】https://digiwith.smrj.go.jp/it-map/
加点⑤ インボイス対応類型固有:インボイス未登録事業者であること
インボイス枠(インボイス対応類型)においては、交付申請日時点でまだ「適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)」として登録していない事業者が申請する場合、加点対象となります。これは、インボイス制度への対応が遅れている事業者を優先的に支援するという政策的意図を反映したものです。
【重要】この加点には必須条件があります
実績報告日までにインボイス登録を完了し、適格請求書発行事業者の登録通知書を実績報告時に提出することが必須です。実績報告日までにインボイス登録が完了できなかった場合は、採択されていても原則として交付決定が取り消され、補助金の交付を受けることができなくなります。加点を狙う場合は、補助事業のスケジュールを踏まえ、確実に登録が間に合うかどうかを事前に確認してください。
加点⑥ 成長加速マッチングサービスへの登録
「成長加速マッチングサービス」とは、中小企業基盤整備機構が提供するビジネスマッチング支援サービスです。このサービスへ登録することで加点対象となります。通常枠・インボイス対応類型の両方で有効な加点項目であり、登録の手間も少ないため優先的に対応したい項目です。
【成長加速マッチングサービス】https://mirasapo-connect.go.jp/corporation
加点⑦ クラウドを利用したITツール導入の検討・インボイス対応ITツール導入の検討
通常枠においては、「クラウドを利用したITツール導入の検討」および「インボイス対応ITツール導入の検討」が加点項目として設けられています。これらはインボイス対応類型では対象外ですが、通常枠申請者は積極的に活用を検討してください。
加点⑧ 国の推進するセキュリティサービスの選定
国の推進するセキュリティサービスを選定している場合も加点対象となります。これは、通常枠・インボイス対応類型の両方に共通する項目です。セキュリティ要件を考慮したITツールを選択をすることが加点に繋がるのです。
【重要】加点申請したにもかかわらず要件を達成できなかった場合のペナルティ
加点項目は「申請すれば有利」という面がある一方で、申請後に要件を達成できなかった場合には深刻なペナルティが待っています。特に「賃金引上げ」の加点は注意が必要です。
賃金引上げ加点を申請して採択されたにもかかわらず、補助事業完了後の効果報告において要件の未達成が確認された場合、正当な理由が認められない限り、中小企業庁が所管するすべての補助金への申請において、未達確認後18か月間にわたって大幅な減点措置が講じられます。
この措置の対象はデジタル化・AI導入補助金だけではありません。ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金など、中小企業庁のあらゆる補助金が対象です。 一時的な採択率向上のために無理な目標を宣言することは、長期的に企業の補助金活用機会を大きく損なうリスクがあります。
「申請するなら実現できる計画で」という姿勢が、補助金を長く安全に活用するための基本です。社内の賃金水準と将来計画を十分に確認したうえで、加点申請の可否を判断してください。
デジタル化・AI導入補助金の見落としがちな「減点項目」と回避策
加点を積み上げることと同じくらい重要なのが、減点項目を回避することです。知らずに減点項目に引っかかると、不採択の直接的な原因になりかねません。
減点① IT導入補助金2022〜2025年度で交付決定を受けたことがある場合
IT導入補助金2022〜2025年度において交付決定を受けたことがある事業者は、それ自体が審査上の減点対象となります。初めて申請する事業者を優先するという考え方に基づくものです。
加えて、IT導入補助金2024または2025年度で交付決定を受けたソフトウェアのプロセスと、今回申請するソフトウェアのプロセスが重複する場合は、さらに強い減点措置が適用されます。プロセスが完全に一致すると判断された場合は不採択となる可能性があります。なお、このプロセス重複による追加減点の対象は2024・2025年度のみとなります。2022・2023年度の交付実績は対象外です。
過去の補助金活用実績がある事業者は、IT導入支援事業者と申請内容を慎重にすり合わせ、過去の導入ツールとの業務プロセス上の差別化を明確にすることが重要です。
減点② 同一年度にインボイス枠で申請・採択済みの状態で通常枠に申請する場合
同一年度において、すでにインボイス枠(インボイス対応類型または電子取引類型)で申請中または交付決定を受けている状態で通常枠に申請する場合は、審査上の減点対象となります。さらに、インボイス枠で申請したITツールと同一機能のツールを通常枠で申請しようとすると、追加の減点が加わります。
通常枠とインボイス枠の両方への申請を検討している場合は、申請の順番や同時申請のリスクについて、事前にIT導入支援事業者専門家に相談することをお勧めします。
まとめ|デジタル化・AI導入補助金の採択率UPには加点・減点を確認
採択率を上げるには、単に申請書を丁寧に書くだけでは不十分です。加点項目をどれだけ積み上げられるか、そして減点項目に引っかかっていないかを申請前にしっかり確認することが採択への近道です。
本記事のポイントを振り返ります。
- 通常枠の採択率は年度序盤で約50%、後半は30%台まで低下。どの時期でも「申請すれば採択」とはならない
- 健康経営認定・賃金引上げ・省力化ナビ・IT戦略ナビwithなど、事前に取得・準備できる加点項目が複数ある
- 2026年度の賃金引上げ加点要件は「令和7年7月の事業場内最低賃金+63円以上をすでに達成していること」(計画宣言だけでは加点にならない)
- インボイス対応類型のインボイス未登録加点は、実績報告日までの登録完了が必須条件(未完了の場合は交付決定取消)
- 賃金引上げ加点の要件未達成は18か月間にわたって他の補助金申請にも影響する深刻なペナルティがある
- IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者はそれ自体が減点対象。特に、2024・2025年度との同機能プロセス重複は不採択リスクがある
- 同一年度のインボイス枠との重複申請は通常枠で減点リスクがある
補助金の申請準備は早ければ早いほど選択肢が広がります。次の公募に向けて、今すぐできる加点項目の取得・登録から着手してみてください。不明点や申請内容の精査については、IT導入支援事業者や専門家への相談も有効です。










