新事業進出補助金の採択傾向を分析|採択率が高い業種とは?

事業再構築補助金の後継補助金として、2025年に新設された「中小企業新事業進出補助金」(以下、「新事業進出補助金」)。2025年10月1日に第1回公募の採択結果が発表され、応募件数3,006件に対し採択件数は1,118件、全体採択率としては37.2%と、やや厳しい結果となりました

採択された申請にはどのような特徴があるのでしょうか。採択結果から分かる傾向と、採択確率を高めるにはどのようにしたら良いかについて解説します。

目次

最大9,000万円の補助金!「新事業進出補助金」とはどのような補助金?

新事業進出補助金とは、既存事業とは異なる、新市場・⾼付加価値事業への進出にかかる設備投資等を⽀援する補助金です。この補助金は、中小企業の成⻑・拡⼤を通した⽣産性向上や、賃上げを促すことを目的としています。

新事業進出補助金の概要

基本要件(1)新事業進出要件
(2)付加価値額要件
(3)賃上げ要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
(4)事業場内最賃水準要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
(5)ワークライフバランス要件
(6)金融機関要件
<賃上げ特例の適用を受ける場合の追加要件>
(7)賃上げ特例要件【要件未達の場合、補助金返還義務あり】
補助率1/2
補助上限額従業員数20⼈以下:750~2,500万円(3,000万円)
従業員数21〜50⼈:750~4,000万円(5,000万円)
従業員数51〜100⼈:750~5,500万円(7,000万円)
従業員数101⼈以上:750~7,000万円(9,000万円)
※補助下限750万円
※大幅賃上げ特例適用事業者(補助事業終了後3~5年の事業計画期間において①事業場内最低賃金+50円、②給与支給総額+6%を達成)の場合、補助上限額を上乗せ。(上記カッコ内の金額は特例適用後の上限額。)
事業実施期間交付決定日から14か月以内(ただし、補助金交付候補者の採択発表日から16か月後の日まで)
補助対象経費機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費

「新事業進出」の定義に該当する事業であることが必須!

新事業進出補助金では、自社が今まで行ってきた事業とは異なる事業にチャレンジするという大胆な挑戦が評価されます。そのため、「新事業進出進出指針の手引き」を熟読して理解し、ご自身の事業が当てはまるものであるかどうかを確認する必要があります。

自社にとって新しい製品・サービスであること

1つ目の要件は「製品等の新規性要件」です。過去に製造等した実績がないことに新たに取り組む計画であることが必須条件となります。たとえば、以前は製造していたけれどしばらく製造していない状態で、これから再度製造しようとしている事業は対象外となります。また、既存製品を単に量産するための経費や、製造方法を変更するだけの場合も対象外です。

ここでの「新規性」とは、応募する中小企業にとって新規の製品・サービスであれば要件を満たします。他社が既に行っており、世の中において新しい事業でなくても構いません。

ただし、事業者の事業実態に照らして容易に製造が可能な新製品を製造する場合などは評価が低くなります。新製品であっても、既存製品に容易な改変を加えただけで製造できたり、単に組み合わせるだけで製造できるような製品も低評価となります。

事業者にとって新たな市場に進出するものであること

補助金で取組む製品やサービスの属する市場が、事業者にとって新しい市場であることが2つ目の要件です。ここでは、既存事業において対象としていなかったニーズや顧客層を対象としている市場である必要があります。事業計画書においては、既存事業と新規事業の顧客層が明確に異なることを示さなければなりません。

例えば、アイスクリーム屋さんが新製品としてかき氷を販売する場合、製品は変わりますが顧客層はほぼ同じです。この場合、かき氷の販売は新規性要件を満たしているとは言えません。また、特定のアイスクリームに専門特化した新店舗を開店する場合も、顧客層が既存事業の顧客層に含まれるため要件を満たしません。

新規事業の年間売上高が、応募申請時の総売上高の10%(又は総付加価値額の15%)以上になる見込みがあること

3つ目の要件は、補助事業が総売上高の10%(又は総付加価値額の15%)以上となることが見込める事業であることです。元々の売上高規模が大きい事業者の場合や、新規事業の製品・サービス等の販売単価が低い場合などは、この売上高要件のハードルが高いこともあります。

直近の事業年度の売上高が10億円以上且つ、新事業進出を行う事業部門の売上高が3億円以上である場合は、当該事業部門の売上高の10%(又は付加価値額の15%)以上を新規事業で占めることが見込まれれば要件を満たします。

売上見込み数値は事業計画最終年度の計画数値で判断されます。妥当性のある3~5年の事業計画を策定しましょう。

第1回公募 新事業進出補助金の採択結果の傾向

【業種別】最も採択率が高いのは製造業

2025年10月1日に発表された採択結果では、全体採択率は37.2%でした。しかしながら、主たる業種別で集計すると、業種によって採択率は大きく異なります。

第1回公募 中小企業新事業進出補助金 主たる業種別の応募件数割合と採択率
第1回公募 中小企業新事業進出補助金 主たる業種別の応募件数割合と採択率

最も採択率が低かったのは「宿泊業、飲食サービス業」で24.4%、最も高かったのは製造業で51.9%です。その差は27.5ポイントも開いています。

中小企業新事業進出補助金に限りませんが、2025年度の補助金には「米国の関税措置による影響」を記入する箇所があります。米国の関税措置による影響を強く受ける事業者は特に製造業に多く、そのことが製造業の採択率の高さに関係していると考えられます。

【都道府県別】応募件数・採択件数ともに大都市圏が多い傾向

次に、都道府県別の状況を見てみましょう。

新事業進出補助金第1回公募の採択結果についてー都道府県別の応募件数・採択件数

上記の表で、各枠の上段の数字は応募件数・採択件数を表し、下段の数値は各都道府県内の中小企業数に占める割合(%)を表しています。

東京都、大阪府など、大都市圏が応募件数・採択件数ともに多い傾向にあります

【申請額別】申請額が高いほうが採択率も高くなる傾向

補助金申請額と採択率の関係性を見ると、申請額が高額である方が採択率が高い傾向があるようです

新事業進出補助金は補助率が1/2なので、補助事業に対する投資額は申請額の2倍以上になります。既存事業とは異なる事業に進出するためには、ある程度高額な投資額の事業計画書の方が実現可能性・成功確率が高いと判断されるのかもしれません。

第1回公募 中小企業新事業進出補助金 補助金申請額の分布と採択件数割合
第1回公募 中小企業新事業進出補助金 補助金申請額の分布と採択件数割合

また、応募件数のボリュームゾーンは2,000万以上~2,500万未満であり、この層の採択率は全体採択率とほぼ同じになっています。

新事業進出補助金の採択確率を高めるためには?

それでは、採択率を高めるにはどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。

まず、基本要件に合致しているかどうかが大前提となります。特に新事業進出補助金では、「新事業進出要件」に当てはまるかどうかが非常に重要です。事前に「新事業進出指針の手引き」をよく読み、新事業として検討している事業内容が要件を満たしているかどうかを確認しましょう。

判断が難しい場合は、お早めに専門家に相談することをお勧めします。

補足資料を作成する

新事業進出補助金の事業計画書は、システムに入力する形で行います。それぞれの項目には字数制限があります。そのため、定められた字数の中で伝えたいことを的確に表現できるよう文章を磨き上げましょう。

図やグラフなどを利用して説明したい場合は、別途「補足資料」として添付する必要があります。字数制限内の文章のみで事業計画を表現するには限界がありますので、補足資料を上手に活用すると良いでしょう。

補足資料にはページ数制限はありません。特に、新事業進出指針への該当性、新規事業の新市場性・将来性、事業実施体制の概要など、図やグラフを用いて説明した方が説得力が増す項目については、できるだけ補足資料を作成してアピールすると良いと思われます。

加点項目は可能な限り申請する

補助金には、審査で一定程度の加点が実施される「加点項目」というものがあります。加点項目を申請すると審査において少し有利になるため、可能な限り申請した方が良いと思われます。

新事業進出補助金の加点項目一覧

(1)パートナーシップ構築宣言加点

 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにおいて宣言を公表している事業者

(2)くるみん加点

 次世代法に基づく認定(トライくるみん、くるみん又はプラチナくるみんのいずれかの認定)を受けた事業者

(3)えるぼし加点

 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成 27 年法律第 64 号)」に基づく認定(えるぼし1~3段階又はプラチナえるぼしのいずれかの認定)を受けている事業者

(4)アトツギ甲子園加点

 アトツギ甲子園のピッチ大会に出場した事業者

(5)健康経営優良法人加点
 健康経営優良法人 2025 に認定されている事業者

(6)技術情報管理認証制度加点
 技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者

(7)成長加速化マッチングサービス加点
 成長加速マッチングサービスにおいて会員登録を行い、挑戦課題を登録している事業者

(8)再生事業者加点
 中小企業活性化協議会等から支援を受けており、以下のいずれかに該当している事業者
 ・再生計画等を「策定中」の者
 ・再生計画等を「策定済」かつ応募締切日から遡って3年以内に再生計画等が成立等した者

(9)特定事業者加点
 公募要領に記載の「特定事業者」に該当する事業者

おすすめ加点① パートナーシップ構築宣言加点

「パートナーシップ構築宣言」とは、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するものです。サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携、下請企業との望ましい取引慣行(「振興基準」)の遵守についての宣言を行います。

まず、ウェブサイトよりひな形をダウンロードし、「記載要領」を参考に宣言文を作成します。次に、登録画面で必要事項を入力し、PDF化した宣言文をアップロードします。登録完了後、約10日後には「登録企業リスト」に公開されます。

宣言が公表されれば、補助金の加点項目として申請ができるようになります。

加点項目の中では難易度が低く、取り組みやすいため、申請することをお勧めします。

※パートナーシップ構築宣言ウェブサイト https://www.biz-partnership.jp/index.html

おすすめ加点② 成長加速化マッチングサービス加点

「成長加速マッチングサービス」とは、事業拡大や新規事業立ち上げなどの成長志向を持つ事業者が、支援者ととつながることができる、マッチングプラットフォームです。

ウェブサイトよりGビズIDでログインし、「事業者」としてプロフィールや挑戦課題の登録を行います。

ステータスが「掲載中」と表示されていれば、挑戦課題の登録は完了となり、加点申請ができます。

※成長加速マッチングサービス https://mirasapo-connect.go.jp/corporation

新事業進出補助金の事業計画書作成のポイント

事業計画書の策定は、審査項目に沿って書くことがポイントです。公募要領に書いてある「審査項目」をよく読み、自社の計画が新事業進出補助金に合致した取組であることを簡潔に分かりやすく書くことが求められます。

補助対象事業としての適格性

補助対象者の要件、補助対象事業の要件を満たすかどうかは最初に確認しましょう。また、補助事業により高い付加価値が創出できるか、賃上げ目標が設定されており、その目標値の実現可能性が高い事業計画であるかも重要です。

新規事業の有望度、実現可能性

新規事業が、自社にとってアプローチ可能な範囲にあり、継続的な売上・利益が確保できるかどうかが重要です。一定の市場規模が存在し、成長が見込まれることを客観的なデータを踏まえて計画書に盛り込むと説得力が増します。

また、事業化に向けた中長期の課題を検証し、それに対する解決方法や具体的なスケジュールもポイントです。さらに、補助事業を適切に遂行できる体制が整っていること、十分な資金調達が見込めることも明記しましょう。

日本経済や地域の事業者等に波及効果を及ぼし、経済成長を牽引できるかどうか

新事業進出補助金は、自社成長のみならず、日本経済や地域経済への貢献が重視されます。審査では、事業を通じた雇用創出や地域内での取引拡大が期待できるかが評価されます。また、周辺事業者や関連産業への好影響を生み出す構造かどうかも重要です。

例えば、地域企業との連携やサプライチェーン強化は、波及効果として評価されやすい要素です。さらに、地域資源を活用し付加価値を高める取り組みも高い評価につながります。

事業計画書では、こうした波及効果を具体的に記載することが求められます。可能な限り数値を用い、定量・定性の両面から説明すると効果的です。政策目的に合致し、経済成長を牽引する事業であることを明確に示すことが、採択の重要なポイントとなります。

まとめ

新事業進出補助金は、企業が新しい分野に挑戦する際に挑戦したい補助金です。しかし、事業計画書をしっかりと練り上げなければ採択は難しい補助金と言えます。

補助金の要件に当てはまるかどうか、成功可能性が高く実行可能で、地域経済などにも貢献できる事業計画であるか、細かくチェックしながら計画書をまとめるようにしましょう。

株式会社ai-soumuでは、新事業進出補助金の申請サポートを行っております。初回相談は30分無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください!

この記事を書いた人

株式会社 ai-soumu(エーアイソウム)
代表取締役 上瀬戸研次
中小企業診断士

事業会社にて18年に渡り経理・総務・人事・情報部門といったバックオフィス業務に従事。
会社設立後はバックオフィスの業務改善・DXの専門家として、IT導入補助金を活用してクラウド会計をはじめ、各種SaaSの販売および導入支援を行う。

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