第1回省力化補助金の結果発表と採択傾向
業種別の採択割合と傾向
2025年6月に公表された「中小企業省力化投資補助事業(一般型)」第1回の採択結果では、全国から1,240件が選ばれました。
注目すべきは、製造業の採択率が61.7%と非常に高い点です。これは、製造業がもともと自動化・省力化の効果を実感しやすい業種であるためと考えられます。
具体的には、熟練技術者による手作業の溶接を、3Dスキャナー搭載の溶接ロボットで自動化した例があります。さらに、検品工程にAI(人工知能)カメラを導入し、無人化を達成した企業も見受けられました。
これらの取り組みは、先進的な技術導入に加え、現場業務への適応性が高く評価された事例といえるでしょう。
建設業(11.3%)や卸売業(5.9%)も一定数が採択されています。これらの分野では、紙図面の読み取りや手入力の工程が省力化の対象になりやすく、同様に効果が明確に示せる業種といえます。

採択された地域の分布と特徴
都道府県別の採択数を見ると、大阪府(124件)、愛知県(108件)、東京都(93件)が上位に位置しています。
これらの地域では企業数が多いだけでなく、補助金に関する情報が行き渡りやすいという利点もあります。特に、専門家の支援を受けられる体制が整っている点も見逃せません。
たとえば愛知県は製造業の集積地として知られ、IoT(モノのインターネット)やロボティクスの導入が活発です。すでに一定の自動化を進めている企業が、さらなる省力化に取り組む傾向があります。

採択金額と企業規模の傾向
申請額の分布では、「1,500〜1,750万円未満」の層が最も多く、全体の17.6%を占めています。補助率が1/2〜2/3のため、導入費用としては2,250〜3,000万円規模の設備投資が多かったと推察されます。
従業員数は「21〜30名」の企業が最多です。資本金は「1,000〜2,000万円未満」の層が34%と最も多くなっています。
つまり、ある程度の経営基盤を持ちながら、人手不足などの課題を抱える中小企業が中心に申請し、採択されている傾向が読み取れます。


採択率が高い業種・都道府県の共通点
製造業・建設業が高採択率の理由
製造業や建設業が多く採択された背景には、「人の手に頼った工程が多く、改善の余地が大きい」という共通点があります。
製造業では、例えば金属部品の精密溶接や検査工程などが、長年熟練者に依存してきました。そこに自動化設備を導入することで、技術の平準化と人手不足の解消を同時に実現できる点が、審査でも高く評価されやすいといえます。
建設業でも、CAD図面と連動する鉄筋加工機を導入した事例があり、これにより手作業による入力ミスや現場での手戻りが減少しました。品質向上と工期短縮の両立が、明確な成果として認められた好例です。
大都市圏が有利な背景とは
東京都、大阪府、愛知県などの都市部は、申請数・採択数ともに上位を占めています。
都市圏では補助金に関する情報が早く広まりやすく、セミナーや専門家の支援も充実しています。加えて、補助金活用の経験がある企業も多く、申請ノウハウが蓄積されているため、書類の質も高くなる傾向にあります。
また、支援機関や中小企業診断士とのつながりが強く、初めて申請する企業でも適切なアドバイスを受けられる環境が整っていることも、大きなアドバンテージとなっています。
採択された企業の従業員数・資本金の傾向
採択された企業は、多くが「中小企業の中核」と呼べる規模です。
従業員数では「21〜30人」、資本金は「1,000〜2,000万円未満」の層が中心でした。この層の企業は、課題が明確でありながら、必要な投資を行えるだけの体力も兼ね備えているため、補助金による成果が分かりやすく、審査においても評価されやすいのです。
省力化補助金申請のポイントと成功事例
採択された企業の実例紹介(製造業・宿泊業など)
まず製造業の事例を見てみましょう。
ある企業では、グリーン水素の電解槽部品を製造しています。これまでは、熟練技術者による長時間の手作業に依存していましたが、3Dスキャナー搭載の溶接ロボットを導入することで、自動化と標準化に成功しました。
この結果、工場全体の生産能力が大幅に向上しただけでなく、余剰人員を品質管理部門に再配置することもできました。品質の安定性向上と顧客対応の強化が図れた好事例です。

一方、宿泊業では、予約・会計・顧客管理を一元化するクラウドシステムを導入した企業がありました。
従来、手入力で行っていた予約管理や宿泊者情報の確認に時間がかかっていましたが、このシステム導入によりフロント業務が大幅に効率化されました。空いた時間で、食事の希望確認や礼状の送付といったサービスも可能になり、顧客満足度の向上にもつながっています。

成功する申請書の構成とは?
導入前の課題と導入後の成果の明示
申請書で最も重要なのは、現状の課題が具体的に示されているか、そしてそれが設備導入によってどのように改善されるかが明確であることです。
たとえば、「1日に30人時間かかっていた工程が、導入後には10人時間で完了するようになる」といった、数値に基づく改善の根拠が必要です。
感覚的な表現や抽象的なメリットでは、審査担当者に伝わりにくくなります。
数値で示す効果と現実的な実施体制
機器を導入することで得られる成果は、なるべく数値で示しましょう。
たとえば、「月間で100時間の削減が見込まれる」「年間で200万円の人件費が削減可能」など、定量的なインパクトを具体的に記すことが望ましいです。
また、導入後の体制も重要な要素です。「誰が操作を担当するのか」「メンテナンスはどう行うか」「社内教育の計画はあるか」といった、実施面の信頼性も加味されます。
曖昧な表現・定量的根拠の欠如
省力化補助金の審査では、「なぜこの設備が必要なのか」「どれほどの効果があるのか」を、明確かつ論理的に説明する必要があります。
たとえば、「作業が楽になると思われる」「効率化が期待される」といった曖昧な言い回しは、審査官に具体的なイメージを与えません。
それよりも、「従来は1工程あたり30分かかっていた作業が、導入後は10分に短縮される」といったように、改善幅を定量的に示すことが不可欠です。
機器構成の不明瞭さや導入計画の甘さ
申請内容が実現可能かどうかを判断するためには、導入機器の具体性も重要です。
製品名や型番、メーカー、構成要素、導入スケジュールなどが明記されていないと、実現性が疑われ、評価が下がってしまいます。
また、「誰が導入作業を担うのか」「使用する担当者は十分なスキルを持っているのか」「導入後にどのように運用されるのか」といった、実施体制についての記述も必要です。
「省力化」の文脈に沿わない提案とは?
この補助金は、あくまで「省力化=人手不足への対応」を目的としています。
そのため、「店舗をおしゃれにしたいからLEDディスプレイを導入する」といった内容では、補助金の趣旨から外れてしまいます。
同様に、「売上を増やすための施策」としてしか説明されていない設備投資も、審査では不利になります。
必ず「人の手を減らす」「作業時間を短縮する」といった視点で申請内容を組み立てましょう。
まとめ:採択率を上げるための戦略とは?
自社の課題整理と導入効果の見える化
まず大切なのは、自社の業務における課題を明確にすることです。
「どの工程で人手が不足しているのか」「どの業務が時間とコストを圧迫しているのか」を丁寧に洗い出すことが、申請の第一歩となります。
そのうえで、機器導入によって「具体的にどれだけ改善されるのか」を数字で示すことが成功の鍵です。作業時間、人件費、業務効率など、定量的な効果は必ず盛り込みましょう。
採択事例を研究し、業種特性を反映
中小企業基盤整備機構が公開している「採択事例集」は、非常に有用な参考資料です。
同じ業種や似た課題を持つ企業の事例から、申請書の構成や表現方法、評価されたポイントを学ぶことができます。
その内容を自社に合う形で応用し、業種特有のニーズを反映させることで、より説得力のある申請書になります。
継続的な改善・再申請の視点を持つこと
一度の申請で採択されなかったとしても、あきらめる必要はありません。
フィードバックを受けて内容を改善し、次の募集で再申請することは十分可能です。省力化補助金は複数回の公募が予定されており、チャレンジを続けることで採択の可能性は高まります。
また、他の補助金制度(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)と併せて情報収集し、自社に最適な制度を見極めることも重要です。
最後に
省力化補助金は、単なる設備導入費の補填ではありません。「人手不足」という経営課題に対して、具体的で再現性のある解決策を提示できるかが採択の分かれ道です。
自社の現状を見つめ直し、他社の事例から学びながら、現実的で効果的な提案をまとめましょう。それが、補助金の採択だけでなく、企業の成長にもつながる第一歩になります。