観光庁の令和7年度補助金を予測!地方誘客促進、インバウンド受入環境整備、人材不足対策はどうなる?

観光業は日本経済において重要な位置を占めており、特にコロナ禍を経た現在、観光産業の回復と地域活性化は喫緊の課題となっています。これに対応するため、国土交通省観光庁は令和7年度予算の概算要求において、持続可能な観光地域づくりやインバウンド戦略、国内交流の促進を柱としたさまざまな施策を提案しています。

令和7年度の観光庁の予算はどの程度の規模で、どのような補助金が公募されるのでしょうか。令和6年度と比較してどのように変わるのでしょうか。予算概算要求および令和6年度第1次補正予算の情報をもとに解説します。

目次

1. 令和7年度 観光庁関係予算概算要求額は約620億円

2024年8月に発表された令和7年度予算概算要求の総括表は下記の通りです。(単位:百万円)

一般財源は前年度予算の1.5倍、約150億円

一般財源は前年度と同様で、大きく分けて(1)持続可能な観光地域づくり(2)地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組(3)国内交流拡大の3本柱となりました。観光庁では令和7年度も引き続きこの3本柱を軸に補助金を公募すると考えられます。

(1)持続可能な観光地域づくりは前年度予算額の2.43倍に当たる約67億円、(2)地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組は前年度予算額1.05倍の約63億円、(3)国内交流拡大は前年度予算額1.72倍の約11.5億円が要求されました。全体としては約150億円にのぼり、前年度予算の1.5倍となりました。

「国際観光旅客税を活用した観光施策」は前年度の1.17倍、470億円

国際観光旅客税とは、日本から出国する旅客が1回につき1,000円を国に納付する税です。船舶または航空会社がチケット代金に上乗せする等して徴収されます。観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するために、平成31年より適用されました。

徴収した国際観光旅客税は、出入国手続きの高度化や地域資源を活用した新たな観光コンテンツの拡充など、特に新規性・緊急性の高い事業に充てられます。観光庁の他にも法務省、財務省、文化庁、環境省、宮内庁に予算編成されます。

観光庁関係の予算の中でも大きなウェイトを占めており、令和6年度の予算約500億円のうち、約80%を占める約400億円が国際観光旅客税財源充当額でした。

令和7年度の予算概算要求では、令和6年度を上回る約470億円が要求されています一般財源と合わせると約630億円となり、これは前年度予算約500億円の1.23倍になります

2.令和7年度の観光庁補助金の具体的内容は?

具体的に、令和7年度の観光庁ではどのような事業が補助金として公募されるのでしょうか。予算が増額される事業を中心に一部の事業を見ていきたいと思います。

(1)前年度比2.43倍の要求額!「持続可能な観光地域づくり」

観光業は地域経済を支える重要な産業です。しかし、急増する観光客に対するインフラ整備が追いつかないことによる「オーバーツーリズム」や、観光資源の保全といった問題も浮き彫りになっています。観光庁はこの問題を解決するため、地域における受入環境整備促進事業を打ち出しています。具体的には、バリアフリー化や公共交通の改善といった観光地での快適な旅行環境を整える一方、観光地の住民生活や地域資源の保護も重視した支援を行うという方針です。

また、地方へのインバウンド誘客を進めるためのインバウンド安全・安心対策では、災害時の外国人観光客対応を含めた観光危機管理計画の策定を支援。医療機関でのキャッシュレス決済の導入や、多言語での情報提供の強化も推進します。訪日外国人が安全かつ安心して旅行できる環境整備は、今後のインバウンド需要の増加に対応する上で重要です。

前年度の2.43倍である約67億円が要求されている「持続可能な観光地域づくり」について、一部解説します。

地域における受入環境整備促進事業:令和7年度要求額1,440百万円(前年度予算額1,240百万円)

〈目的・背景・課題〉

●順調に増加するインバウンド旅行者を含めた観光客に対してストレスフリー・バリアフリーで快適な旅行を満喫してもらうための環境整備の側面と、観光地の住民の生活の質を確保しつつ、地域資源の保全・活用等を推進する側面の両面を、持続可能なあり方で追求する。

〈事業内容〉

●オーバーツーリズムの未然防止・抑制や地域資源の保全・活用に向けた受入環境整備を支援(観光スポットや周辺エリアの混雑状況の可視化・リアルタイム配信など)

●交通サービスの受入環境整備を支援(エレベーター等の段差解消、UDタクシーなど)

地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業:令和7年度要求額100百万円(前年度予算額30百万円)

〈事業目的・背景・課題〉

●日本では災害が激甚化・頻発化しており、訪日外国人旅行者が災害に遭遇する可能性や医療機関を受診するケースが増加している。地方への誘客を促進するため、外国人旅行者が日本各地を安全・安心に旅行できる環境を整えることが重要である。そのため、地域での観光客向け危機管理体制の整備や、多言語での情報発信、観光施設の非常時対応強化、医療機関でのキャッシュレス決済の導入を推進する。

〈事業内容〉

①地域における観光危機管理計画の策定に向けたマニュアル整備

②地域における観光危機管理計画の策定補助

③観光施設等の避難所機能・多言語対応機能の強化:多言語AED等

④医療機関の訪日外国人患者受入機能の強化:キャッシュレス決済環境の導入、トイレの洋式化・多機能化等

観光地・観光産業における人材不足対策事業:令和7年度要求額300百万円(前年度予算額100百万円)

前年の3倍もの予算が要求された事業です。令和6年度は4回の補助金公募がありましたが、令和7年度は予算を増額して引き続き公募が行われると考えられます。

〈事業目的・背景・課題〉

●宿泊業ではインバウンドをはじめとする観光需要の急速な回復に伴い人手不足が顕著となっている。今後更なる増加が見込まれる観光需要を着実に取り込み、地方への旅行者数・旅行消費額等の増加といったインバウンドによる経済効果を最大限にするためにも、受け皿となる宿泊業の人手不足の解消が急務。
●人手不足の解消に向け、採用活動等の足下の対策、機械化・DX化推進のための設備投資支援等の短期的な対策、外国人材の活用、経営の高度化等の中長期的な対策など、あらゆるフェーズの人手不足対策を総合的に実施。

〈事業内容〉

①人材確保の促進:宿泊業魅力発信イベント実施、事業者の採用活動を全面的に促進

②人材活用の高度化に向けた設備投資支援:スマートチェックイン・アウト、配膳・清掃等ロボット等の設備投資を支援

③外国人材の確保:特定技能試験の受験者を増やすためのPR活動、観光地のおける外国語対応人材の確保等

④経営の高度化:「観光人材育成ガイドライン」に準拠した教育プログラムの充実等

当社では「観光地・観光産業における人材不足対策事業」補助金の申請サポートを行っております申請を検討されている事業者様はお気軽にお問い合わせください。

(令和6年度の公募は終了しました。令和7年度の公募開始をお待ちください。)

(2)オーバーツーリズム対策!「地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組」

主要な観光地に訪日外国人観光客が集中することで起こる、「オーバーツーリズム(観光公害)」と呼ばれる観光地の交通渋滞や観光産業に従事する人手不足等の問題を解決するため、地方観光地へ訪日外国人観光客を誘客する取組が重視されています。

地方への誘客を促進することで、観光客の消費を地方に波及させ、地域経済の活性化、雇用創出、地域産業の振興を図ることが目的です。特に、観光産業の中核である宿泊業においては、コロナ禍の影響で経営難に陥っている事業者が多く、地方への誘客による収益増加が期待されています。

「地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組」は前年度とほぼ同程度の約63億円が要求されています。

地方部での滞在促進のための地域周遊観光促進事業:令和7年度要求額563百万円(前年度予算額563百万円)

〈事業目的・背景・課題〉

●観光立国推進基本計画(R5.3閣議決定)では、訪日外国人旅行者一人当たりの地方部における宿泊数を、令和7年までに2泊とすることを目標としている。

●その達成に向けて、地方部での滞在時間や宿泊数の増加に資する取組をより一層推進していく必要があることから、持続可能なあり方で旅行者の地域周遊・長期滞在を促進。

〈事業内容〉

①調査・戦略策定:データに基づき、旅行者に対し訴求力のある取組を実施するための調査・戦略策定を支援。

②滞在コンテンツの充実:地域独自の観光資源を活用した滞在コンテンツの造成を支援。

③受入環境整備:観光地の案内アプリの整備を支援。

④旅行商品流通環境整備:旅行商品の国内外OTAへの掲載、旅行会社との商談会などを支援。

⑤情報発信・プロモーション:SNSを活用した効果的な魅力発信を支援。

(3)国内交流拡大

国内旅行市場は、人口減少が進む中、コロナ前の約10年間で旅行者数・消費額とも横ばいで推移してきました。国内旅行市場が需要拡大へ転じるためには新たな交流市場や観光資源を創出することが重要です。

「国内交流拡大」につきましては、前年度1.72倍にあたる11.5億円が要求されています。

観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズムの創出事業:令和7年度要求額500百万円(前年度予算額54百万円)

前年度より最も拡大が予想されるのが「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズムの創出事業」です。令和6年度予算より9.26倍もの予算が要求されました

〈事業目的・背景・課題〉

●今後とも人口減少の影響は避けられない中、高齢者・障害者、訪日外国人旅行者等へストレスフリーな宿泊環境を整備する。

●2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、高齢者旅行者の増加が見込まれるなど国内における新たな交流市場を開拓する取組が必要であるため、ユニバーサルツーリズムの推進により、需要の平準化や新たな交流市場拡大を進めるとともに観光産業の収益性の向上を図る。

〈事業内容〉

①宿泊施設におけるユニバーサルツーリズムの実現に必要な支援:施設改修および設備導入(車椅子、入浴サポート機器 等)

②旅行が困難な方の需要の掘り起こし調査/高齢者・障害者等に応じた旅行商品造成の手法確立とノウハウ共有

③「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の見直し・改善、制度の普及促進

3. 観光庁補助金に活用される前年度補正予算は約543億円

令和6年11月29日、令和6年度第1次補正予算が発表されました。これは令和7年度の観光庁補助金に活用されます。総額543億円、内訳は下図の通りです。

①観光地・観光産業の再生・高付加価値化:300億円(前年度補正予算:約200億円)

観光地としての価値向上と収益性の改善を目指す本支援策は、補正予算最大の柱です。個別施設の改善にとどまらず、地域全体の観光価値向上を目指し、デジタル技術の活用や持続可能性にも配慮した包括的な支援を行います。

〈主な支援内容〉
  • 宿泊施設の大規模改修(客室改装、共用施設リニューアル)
  • 観光施設の面的整備(景観形成、観光動線の最適化)
  • 廃屋撤去等の環境整備
  • 地域全体のデジタルインフラ整備

②オーバーツーリズム対策等の受入環境整備:158億円(前年度補正予算:約305億円)

増加する観光客と地域住民の調和の取れた関係構築を目指し、受入環境の整備からマナー対策まで、持続可能な観光地づくりに向けた包括的な支援を提供します。

〈主な支援内容〉
  • 多言語案内システムとWi-Fi環境の整備
  • 混雑状況の可視化システム導入
  • バリアフリー施設の整備
  • キャッシュレス決済の導入支援

③地方誘客促進によるインバウンド拡大:80億円(前年度補正予算:約184億円)

地方への外国人観光客誘致を促進するため、地域固有の観光資源を活用した新たな体験型コンテンツの開発から、効果的な情報発信まで、誘客に必要な総合的な支援を実施します。

〈主な支援内容〉
  • 地域文化を活用した体験プログラムの造成
  • OTAなど販路開拓支援
  • 多言語対応予約システムの導入
  • SNSやインフルエンサーを活用した情報発信

④能登半島地震被災地域への特別支援:5億円(前年度なし)

被災した能登地域の観光再生に向けて、専門家の知見を活用しながら、観光地としての復興と新たな魅力創出を同時に目指します。単なる復旧にとどまらず、将来を見据えた観光まちづくりの実現を支援します。

〈主な支援内容〉
  • 専門家派遣による観光再生計画の策定支援
  • 観光コンテンツの再構築と新規開発
  • 地域の観光資源を活用したプロモーション支援
  • 安全・安心な観光地としての情報発信支援

前年度の補正予算と比較すると約146億円減

補正予算だけを見ると、①観光地・観光産業の再生・高付加価値化は1.5倍です。しかし、②オーバーツーリズム対策等の受入環境整備、③地方誘客促進によるインバウンド拡大は約半分に減っており、全体でも約146億円減っています。

まとめ

以上で見てきたように、観光庁では令和7年度も(1)持続可能な観光地域づくり、(2)地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取組、(3)国内交流拡大の3本柱を軸に補助金が公募されると考えられます。

要求された一般財源と国際観光旅客税の予算額は約620億円です。また、令和6年度の補正予算約543億円も活用されます。以上を踏まえると、令和7年度の観光庁の補助金は令和6年度と同規模程度、もしくはやや少なめの予算での公募となることが予測されます

近年のインバウンド回復は明るい兆しであるものの、日本の観光産業の真の成長には、地方誘客の成功が不可欠と言えるでしょう。本コラムで見てきたように、観光庁は令和7年度予算要求において、地方への誘客促進と観光産業の活性化に重点を置いています

地方誘客には、観光客の地方分散による経済効果の拡大、まだ知られざる日本の魅力の発掘と発信、そしてオーバーツーリズムの抑制といった狙いがあります。地方独自の観光資源を活かした体験型コンテンツの開発や、多言語対応などの受入環境整備、効果的なプロモーション戦略などが求められています。

しかし、地方誘客には課題も多くあります。地方の魅力が海外に十分に伝わっていない、交通アクセスや宿泊施設の不足、人材不足などが挙げられます。これらの課題を解決し、地方誘客を成功させるためには、官民一体となった戦略的な取り組みが欠かせません。

政府は、DMOによる地域周遊観光の促進や、効果的な訪日プロモーション、MICE誘致の強化、地方における免税店化の推進など、多岐にわたる施策を展開していく方針です。

これらの取り組みの成果が、日本の観光産業の持続的な成長、そして地方創生の実現に繋がることを期待したいと思います。

〈参考〉

令和7年度「観光庁関係 予算概算要求概要」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001760261.pdf

令和6年度「観光庁関係補正予算」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001845636.pdf

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